京都地方裁判所 昭和44年(ワ)238号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕四、以上認定の事実からすると、次のことが結論づけられる。
(一) 小嶋俊也の体の上に崩落したコンクリート壁は、被告改良区が、山田部落に作らせた本件用水路の東側三段目のコンクリート護岸壁である。
被告改良区が、管理を委託されていたのは、二段目までのコンクリート護岸壁であるが、三段目のコンクート護岸壁も、併わせて事実上管理していた。この点について、被告改良区は、三段目を特に除外して管理していたことが認められる証拠はない。
(二) この三段目のコンリート護岸壁は山田部落民の素人工事で構築されたもので、二段目のコンクリート護岸壁と密着させるため鉄筋を入れるなどの措置は講じられておらず、ただ二段目のコンクリート護岸壁の上に積み重ねただけのものであつた。
(三) この三段目のコンクリート護岸壁が設けられたため、その上端は、道路幅約三メートルの市道と同じ高さになり、その上端は、市道の一部(路肩)のようになつた。
(四) 被告安川茂は、本件事故の日の前日の午前一〇時ごろ、本件事故現場の市道軟部に乗車中の貨物自動車の右後車輪を落ち込ませた。その場所は、前記三段目のコンクリート護岸壁の内側から約三〇センチメートル位のところであつた。
右貨物自動車は、本件用水路側に傾いて停車したが、それが原因で、そこの三段目のコンクリート護岸壁には、東西に一条の亀裂が生じ、そこを断端に、三段目のコンクリート護岸壁の北側部分の上端が、本件用水路側に傾斜した。
被告安川茂は、その傾斜した三段目のコンクリート護岸壁の西側に丸太棒のつつかい棒をしてこの崩落を防いだのち、右貨物自動車の後部の辺に板を敷き、その板の片端をコンクリート護岸壁にかけたうえ、この板の上にジャッキーを置いて、車体を持ち上げ、落ち返んだ車論を浮かせ、その下に土を入れた。この作業が、右損耗したコンクリート護岸壁に負担をかけ、ぐらつかせて不安定なものにしたことは否定できない。
それだのに、同被告は、貨物自動車を引き揚げる作業をすませると、つつかいにした丸太棒をはずしてしまい。コンクリート護岸壁の異常の有無を確認しないで立ち去つてしまつた。
(五) 小島太郎が、その翌朝本件事故現場を見たとき、前記丸太棒を取りはずしたコンクリート護岸壁の上端が、本件用水路側に約一五センチメートルもはみ出して傾斜していた。
そこで、小島太郎は、早速被告改良区に電話してこのことを連絡して安全措置を講ずるよう注意した。
しかし、被告改良区は、直ちにこれに応じて適切な措置をしないで放置した。
(六) このようにみてくると、本件事故の原因は、被告安川茂が、三段目のコンクリート護岸壁に亀裂を生じさせ、そこからその北側部分が本件用水路側に傾斜するほどコンクリート護岸壁を損壊しながら、不注意にも、その損壊を見落し、崩落を防ぐため適切な措置を講じなかつたもので、これは不作為による不法行為に該当し、同被告のこの不作為が本件事故の原因となつたことは否定できない。従つて、同被告は民法七〇九条による損害賠償責任がある。
(七) この点について、同被告は、同被告の右一連の行為と本件事故との間には、二八時間も経過しているから、直接関係はないと主張している。
本件事故の日の早朝、前記コンクリート護岸壁が傾斜していた事実が認められるが、それが何時からそのような危険状態になつていたのかは、証拠上明らかではない。同被告のいうとおり、その引場作業後に通つた車両の振動によるものかも知れない。
しかし、右のように傾斜していた事実の原因は、被告安川茂が貨物自動車を落ち込ませてコンクリート護岸壁に亀裂を与え、その引揚作業によつて亀裂の入つたコンクリート護岸壁をぐらつかせ、不安定な状態にしたまま放置したことに帰せられる。従つて、被告安川茂は、このことから生じた本件事故の責任を免れることはできない。
(八) 本件事故の原因は、さらに、被告改良区の次のコンクリート護岸壁の管理上の瑕疵によるもので、これと被告安川茂の前記不法行為とは、共同不法行為の関係に立つ。すなわち、
被告改良区は、本件用水路の管理責任者として三段目のコンクリート護岸壁を事実上本件用水路の擁壁の一部として管理していたものであるが、本件事故現場の三段目のコンクリート護岸壁が本件事故当時、本件用水路に傾斜し、それが崩落の危険にさらされながら、その安全性確保のため、なんら適切な措借置を講じなかつたわけであるから、これは、被告改良区の本件用水路のコンクリート護岸壁の管理上の瑕疵であるとするほかはない。従つて、被告改良区は、国家賠償法二条一項による損害賠償責任がある。
(九) 被告改良区は、三段目のコンクリート護岸壁を補修する時間的余裕がなかつたと主張しているが、前記認定のとおり、小島太郎が、危険部位を発見して被告改良区に通報しているのであるから、被告改良区は、直ちにその部位を確認し、立入禁止の棚を設けるなど適切な措置を講ずることは不可能ではなかつたのである。従つて、この主張は採用できない。
(一〇) しかし、小嶋俊也は、傾斜したコンクリート護岸壁の上端を森中貞行と二人で手をつないで歩行したのであるから、そのように特にこの上端を歩行しなければならなかつた事情が認められない本件では、小嶋俊也のこの危険な行為が本件事故の一原因となつている以上、小嶋俊也の過失として損害額算定の際斟酌しなければならない。
当裁判所は、小嶋俊也のこの過失をほぼ三割と評価する。
五、損害額について判断する。
(一) 小嶋俊也の逸失利益
死亡時の年令 七歳
就労可能年数 一八歳から六三歳まで
月収 金五万一、〇〇〇円、ほかに、賞与年金一四万三、二〇〇円(昭和四三年の賃金センサスによる)
生活費 年収の二分の一
{(51,000円×12)+143,200円}×0.5×10.392(18.698−8.306)=3,924,019円
そこで、原告らが主張する金二八五万八、八六九円の範囲で認める。
小嶋俊也の相続人が、その両親である原告らであることは、被告らが明らかに争わないから、自白したものとみなす。
そうすると、原告らは、小嶋俊也の遺産相続人として、各金一四二万九、四三四円あて遺産相続によつて承継取得したことになる。
(二) 原告らの損害
(1) 原告小嶋二三男の支出した葬儀費 金一五万円
同原告の支出した小嶋俊也の葬儀費用中、本件事故による損害としては、金一五万円の範囲で認める。
(2) 原告ら慰藉料 各金一〇〇万円
本件に顕われた諸般の事情を斟酌し、原告らの本件事故による精神的苦痛に対する慰藉料は、各金一〇〇万円あてが相当である。
(三) 過失相殺
以上の合計である。
原告小嶋二三男は、金二五七万九、四三四円
原告小嶋浪子は、金二四二万九、四三四円
をそれぞれ請求できるところ、小嶋俊也の前記過失割合(ほぼ三割)によつて過失相殺をすると、
原告小嶋二三男は、金一八〇万円
原告小嶋浪子は、金一七〇万円
になる。
(古崎慶長 谷村允祐 飯田敏彦)